寺川ムラまち研究所

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 「歌の町」という童謡は、昭和22年8月に日本ビクターからレコードで発売されました。終戦間もない荒れたまち、荒んだ心を引きずる時代に、歌で人々を励まそうと子どもの幸せを願うまちづくりの夢が秘められた歌として作られ、そして歌われてヒットしました。
 結論から先に言いますが、この「歌の町」に秘められたまちづくりの夢こそが、今の中心市街地のあるべき姿ではないか、というのがこの私論です。まずは四番まである詩を見て下さい

「歌の町」

作詞  勝  承夫
作曲  小村 三千三

よい子が住んでる よい町は
楽しい 楽しい 歌の町
花やは ちょきちょき ちょっきんな
かじやは かちかち かっちんな

よい子が集まる よいところ
楽しい 楽しい 歌の町
雀は ちゅんちゅん ちゅんちゅくちゅん
ひごいは ぱくぱく ぱっくりこ

よい子が元気に 遊んでる
楽しい 楽しい 歌の町
荷馬車は かたかた かったりこ
自転車 ちりりん ちりりんりん

よい子のおうちが 並んでる
楽しい 楽しい 歌の町
電気は ぴかぴか ぴっかりこ
時計は ちくたく ぼんぼんぼん

 どうですか?戦後の廃墟の中で歌われたかと思うと、復興への切実な思いが伝わってきませんか?そして、よーく内容を吟味してみると、中心市街地のあるべき姿を示す重要なテーマが4つ示されているのが分かりますか?それをこれから解説します。

1.中心市街地の産業のあり方が示されています。

「花屋がちょきちょきです。」

 花屋に求められる能力はアレンジメント技術です。花を市場から仕入れてそれを単に店先に並べて売るだけでは良い花屋とは言えません。花屋は求める人のニーズや気持ちに添って、季節の花を選択し、色合いから大きさ、バランスなどを勘案して適切な花束をつくり渡す。つまり総合的なアレンジメント技術が必要です。
お客のニーズに合わせて商品をアレンジして売る。商売の基本である一人一人のお客を把握することと、求める気持ちに答え、かつ提案できる専門性を持った商売が出来る事が必要です。

「鍛冶屋がかちかちです。」

 今の中心市街地には「ものづくり」の要素が少なくなっています。製造小売りの店がどんどんなくなっています。豆腐屋さん、惣菜屋さん、靴屋さん、鞄屋さん、テーラーなどなど。
 製造小売りの店は、量り売りが出来ます。修理が出来ます。エコです。サステナブルです。

 まちの音がします。薫りがします。様々な仕事が見えるまちが良いまちだと思います。そしてこのようなまちに子ども達がたくさん遊んでいるともっと楽しくなります。

2.中心市街地に自然的な要素が必要です。

「雀がちゅんちゅん、緋鯉がぱくぱくです。」

 中心市街地にまとまった緑と水辺があり、鳥や魚をはじめとした生き物が生息する環境があると、生き物である人も自然と集まってきます。(よい子が集まるよいところです)
 東京には皇居があります。新宿には新宿御苑が、渋谷には代々木公園が、上野には上野の森や不忍池が、吉祥寺には井の頭公園があります。ちょっと大げさですが、それぞれのまちに合った品格があり、誇りの持てるまちを目指すなら、まとまった緑と水は必要条件であると思います。もちろん、そのまちの地形や歴史に根付いた緑や水であるとなお良いと思います。

3.人間スケールの落ち着いたまち。

「荷馬車がかたかた自転車ちりりんで、子どもが元気に遊んでる。」

 人と人にやさしい輸送手段や移動手段で成り立つまち、人の手ざわりを大切にするまちはしっとりやさしく、落ち着いたまちです。
 せめて、人が歩ける中心市街地の範囲では、トラックや自家用車が傍若無人に入り込むようなことがない空間を作りたいものです。
 何度も繰り返しますが、このようなまちに子ども達がたくさん遊んでいると、とても楽しくなります。中心市街地も自然と違った意味で子ども達が学ぶ環境です。大人達が働き、暮らし、怒ったり、笑ったり、時には泣いたりしているところを子ども達はすり抜けながら遊び、学ぶのです。大人達は忙しいので子ども達を構ってはいられませんが、人間スケールのまちでは、横目でチラッと気にかけるだけで良いのです。(もちろん、時には怒鳴ったりすることも必要です。)

4.そして、人が住んでいるまちです。

「電気がぴかぴかで時計がちくたくです。」

 24時間人の気配がするまち、暮らしの気配がするまちであることが必要です。決して24時間寝ないまちではありません。
 話は突然飛びますが、東日本大震災復興途上の地域の様子を見ていて、防災集団移転促進事業による高台移転がようやく動き出していますが、その事業の状況を見ていて「あれ?」と思うことがあります。高台移転する方々が元々住んでおられた低地(津波で流出したところ)は災害危険区域に指定され、人が住めないところになっています。将来へ向けた安全を確保するためには致し方ないのでしょうが、その低地をかさ上げしたりして中心部を再生するような計画が検討されています。しかし、そこは中心部の産業的な機能は立地するとしても人は住めないのです。つまり人が住まない中心市街地を構想しているまちがあります。何とかならないものかと思います。

 一口に中心市街地といっても、大都市から地方都市まで様々ですし、交通の条件や地形条件、歴史条件なども様々ですから、そのあり方は千差万別でしょう。しかし、これまでの述べた4つの要素はその有り様は様々でも絶対に必要な要素だと思います。
 そして、何度でも繰り返しますが、中心市街地には子ども達がたくさん遊んでいるのが良いと思っています。そこのまちに住んでいる子ども達も、周辺のムラからやってくる子ども達も、みんなが中心市街地を探検し、冒険し、発見するようなわくわくする要素が一杯あるまちになったらいいと思います。


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