寺川ムラまち研究所

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支所まちづくり私論
2013.5.10(有)寺川ムラまち研究所 寺川重俊

平成の大合併は、自治体経営のあり方を含めて合併そのものに関する賛否両論の中で評価・総括が成されないまま、合併自治体は継続してその仕事を粛々と進めています。一方、地方分権、地方主権といったかけ声は益々大きくなり、自治体の変革は一層喫緊の課題として最重点の取り組みが求められています。そのような中にあって、合併による組織改革の中で位置づけられる「支所」はその役割やあり方に関して試行錯誤がいずれの自治体においても行われており、その方向性は身近な地域の自律的まちづくりの推進にとって重要な課題といえます。ここでは、その「支所」に視点をあてて、新たな展開の可能性を論じたいと思います。
1.支所における課題
合併した多くの市町村においては、「支所」は旧市町村に配慮した重要な存在であると位置づけている一方で、行財政運営的な問題から部門の統合や本庁への機能移転・統合、それに伴う職員数の削減を余儀なくされています。
合併市町村における行政運営の大きなテーマは「旧市町村を中心とした地域の独自性の維持・増進」と「新市町村としての一体性の醸成」の2つをどう整合させるかにあります。その際、前者は「地域協議会」という地域住民により構成される組織における議論が担うこととなっていますが、実態としてたいした権限も財源もなく、いわば地域のガス抜きの場的な役割しか果たしていないような状況が見受けられます。一方で後者の議論に関しては、行政事務手続き上の整合性のみが先行し、施設使用料の一元化や補助金制度の統合など、行政運営の都合が優先されるような一体化ばかりが進んでいます。
本来、前者のテーマである地域の独自性を発揮したまちづくりや行政サービスの推進を図るためには、住民側の検討・実施体制の充実とともに支所機能の果たす役割に期待する部分が大きいはずです。しかし、前述のように民間側(地域協議会)に任せるだけで、それと対応した支所機能に関しては縮減という相反する方向に進んでいるのが多くの合併市町村の現実です。
2.支所機能強化の方向性
合併前に、旧の市町村における行政機能として地域への行政サービスや地域のまちづくり支援を担ってきた全ての機能があった場所が支所です。その支所を、少なくとも旧合併地域に即した行政サービスや地域住民のまちづくり活動を支える機能として再度強化していくことがどうしても必要です。それを、行財政改革の流れの中でどうやって実現していくかが問題なのです。
かつて、旧行政機能にあった福祉、教育、土木、建設、環境、産業、地域振興、地域自治(コミュニティ)などの各部門は、行政の縦割りの弊害が言われながらも行政サービスや各種地域活動を支援していくうえで機能してきました。そして、その各部門に対応した住民側の各種組織、団体、グループがそれぞれの地域の実情や特性に応じて存在していました。もちろん、合併後も存在しています。むしろ、合併して行政が遠くなった(感覚としても実態としても)ことに対して、自分たちの地域やまちづくり活動を守るために様々な組織や団体、グループが増えているところもあるだろうと思います。
さらに、これらの住民側の組織の中では、それぞれのテーマや地域の中で連携して相乗的に活動していくための、個々の組織や団体、グループを上手くコーディネートしていく、いわば中間支援的な機能を持つ組織が生まれているところもあるでしょう。
そこで、このような行政部門に対応した住民側の組織間での調整のもとで、これらの組織を中間的に支援する機能を支所機能として取り込んでいくことで機能強化を果たしていくというのが、今後の支所強化の基本的な方向性である。
3.具体的な展開
行政部門に対応した住民側の組織を中間的(行政と民間の間)に支援する組織(NPOや任意の組織)を積極的に立ち上げ、その組織の事務局を支所に置き、その専従職員を支所職員として雇用(雇用形態に関しては様々に想定される)していくということが具体的展開の内容です。
つまり、様々なテーマや地域に関わる住民組織に対応した中間支援組織の活動における場所の提供と人件費の支援を行うと同時に、それが支所機能の強化につながるような展開である。
福祉や子育て、教育の分野では既に多くの地域で様々な組織が活動し、さらにそれらが上手く連携してそれぞれの組織が十分に役割を果たしていけるようにサポートする中間支援組織も立ち上がっています。このような展開をさらに行政各部門に対応してその動きを作っていくことが必要です。少し極端な例では、土木・建設部門に関して、それぞれの地域にある中小の建設会社がありますが、地域のきめ細かい道路や河川などの維持管理や小さな改修などの土木工事などに関して、建設会社自らが地域の状況を把握し、限られた予算の中でいかに効率的に必要な補修や建設をすればよいかを判断しそれを実施する役割を果たせるよう、各建設会社が連携して中間支援的な機能(現在の協会や組合のような)をしっかりと位置づけ、その事務局を支所に取り込むということも考えられます。(いわゆる談合組織とは異なる位置づけとチェック機能が必要ではありますが)
このように、市民活動団体や地元企業が協働のまちづくりの担い手として行政サービスや各種の事業を実施していく体制として、支所が中間支援組織の事務局を取り込む形で機能強化、人員強化を図っていくことが望まれます。取り込む人員の人件費とその活動に係る経費は、当該地域の自律的なまちづくり支援の費用として、予算的には各地域に対しての一括交付金のような形態が想定され、財政改革における支所の人員削減とは矛盾しないとともに、行政改革における協働のまちづくり推進に寄与する流れといえます。さらに、地域における人材発掘や雇用創出にもつながります。
4.効果と課題
以上のような支所機能強化の方向性は、それぞれの地域の特性や住民の意識、住民活動の状況に応じた柔軟な対応が必要ですが、基本的には各地域の独自で自律的なまちづくりを推進する上で大きな役割を果たしていくことが想定され、さらに前述のように人材活用や雇用の創出につながる効果が期待できます。
一方、これらの民間の中間支援組織の事務局を取り込む上では、その活動に対しての基本的な方向性や活動に対してのチェック機能が必要です。そのためには、支所それぞれに全体を見通せるしっかりとしたコーディネーターが必要です。そして、各部門間の連携にも配慮することが必要です。さらに、チャック機能という意味では冒頭で課題として記した「地域協議会」の役割が期待されます。このような「地域協議会」の役割は、いわば議会の役割と類似するともいえます。そのため議会的な役割に沿って、その人選方法や権限などを見直すことが求められます。さらに、強化された支所機能が地域の議会ともいえる地域協議会の事務局機能をしっかり果たすことが求められます。
最後に、このような支所機能強化による地域独自のまちづくりの推進に対応して最も重要なことは行政全体の予算・実施・評価の枠組みとそのやり方を変えていくことが求められるということです。合併市町村全体で考える各部門の事業・施策と各支所が自律的に執行する事業・施策とを分けて予算編成を考える必要があり、さらにそれをチャックする議会のありようも変わってくると思われます。

以上、私論として述べてきたが、細部においては実際の市町村のそれぞれの状況や法律的な問題などがいろいろとあると思います。しかし、基本として言いたいことは、支所は地域の要として地域のことを考える人がしっかりと居て、そこに地域の人たちが多く出入りするような状況が全体に必要であるという点です。様々な合併市町村における支所を見ていると、あまりにも寂しい状況なのです。


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